大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和41年(あ)3055号 判決 1967年7月14日

主文

原判決を破棄する。

被告人を免訴する。

理由

職権をもって調査すると、本件公訴事実は、次のとおりである。

被告人は大阪市天王寺区細工谷町一番地で物品税課税物件である化粧品の製造をしていたものであるが、その従業員中村静江、井上弥一郎、畑賢司等は被告人の業務に関して

一、昭和二二年一月中に被告人が製造した化粧品マニキュア、ポマード、クリーム、香油等一、〇五七打を前記製造場から税込価格一三〇、五五五円六〇銭で他に移出販売したのに、所轄南税務署に対しては税込価格三三、九五六円一〇銭で移出販売した旨過少に記載した物品税課税標準申告書を提出し、よって右差額に対する物品税額四八、二九九円七〇銭を翌月末日までに納付しないで逋脱し

二、昭和二二年二月中に被告人が製造した化粧品、マニキュア、ポマード、クリーム、香油等一、五二三打を税込価格二一三、四〇七円で前記製造場から他に移出販売したのに、所轄南税務署に対しては同月中に二八八打を税込価格二二、〇三二円で移出販売した旨過少に記載した物品税課税標準申告書を提出し、よって右差額に対する物品税額九五、六八七円五〇銭を翌月末日までに納付しないで逋脱し

三、昭和二二年三月中に被告人が製造した化粧品マニキュア、ポマード、クリーム、香油等二、五二二打を税込価格三二七、三三〇円で前記製造場から他に移出販売したのに、所轄南税務署に対しては同月中に三五七打を税込価格二八、六七〇円四〇銭で移出販売した旨過少に記載した物品税課税標準申告書を提出し、よって右差額に対する物品税額一四九、三二九円八〇銭を翌月末日までに納付しないで逋脱したものである。

してみると、右各罪についての公訴時効は、昭和二四年法律第二八六号による改正前の物品税法一〇条所定の納期である各翌月末の経過をもって進行を開始したのであるが、記録によると、右各違反事実について、昭和二二年七月一六日被告人あてに通告処分がなされ、これによって公訴時効が中断され、その後約四年を経過した昭和二六年七月二三日本件につき公訴提起のあったことが明らかである。

ところで、右物品税法二二条のいわゆる両罰規定における事業主としての法人または人に対する公訴時効は、その法人または人に対する法定刑である罰金刑につき刑訴法二五〇条五号により定められた三年の期間を経過することによって完成するものと解すべきことは当裁判所大法廷判決(昭和二九年(あ)第一三〇三号同三五年一二月二一日宣告、刑集一四巻一四号二一六二頁)の趣旨に照らして明らかであるから、本件においては、前記通告処分があったのち、右三年の期間の経過により、公訴提起前に公訴時効が完成していたものといわなければならない。

してみれば、被告人に対しては免訴の言渡をすべきであったにかかわらず、これを看過して刑の言渡をした原判決は違法であって、これを破棄しなければ著しく正義に反するから、弁護人の上告趣意につき判断を与えるまでもなく、刑訴法四一一条一号により原判決を破棄し、同法四一三条、四一四条、四〇四条、三三七条四号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例